“わたしはわたし” で “あなたはあなた” で、
“わたし” は、あなたのものではないですし
“あなた” は、わたしのものではないですよね。
“わたし” と “わたし以外” のあいだには
「ここからこっちは “わたし”」
「ここからあっちは “あなた”」という境界線があります。
からだ、こころ、そして人権を守るための境界線です。
“わたし” と “パートナー”
“わたし” と “親”
“わたし” と “親友”
“わたし” と “上司”
どの関係にも、必ず境界線があります。
わたしたちは、誰かによって
からだやこころや人権を脅かされることはなく、
自分のからだのやこころや人権を守る権利があります。
嫌なことや不快なことを「No」と言える権利があります。
一方で、相手の境界線を踏み越えることは
相手への脅威となります。
しかし、親密な関係においては特に、
この境界線はとてもあいまいなものになることがあります。
その中では、自分にとっては嫌なことや不快なことも、
Noと言わずに我慢した方が
相手を怒らせないからとか、
空気が悪くならないからとか、
相手が言っていることが普通なのかもしれないとか、
そういった理由で嫌なことを受け容れてしまうことがあるかもしれません。
妊活を始められた場合、
排卵前に性交渉をするというステップを
試みられる方々も多いと思いますが、
中には、性交渉をもてないカップルもおられます。
もともと何らかの事情で難しい場合もあれば
(EDや膣内射精障害、また性交痛があるなど)
妊娠のために性交渉をするということが
苦痛に感じられる場合もあります。
どちらか片方が苦痛を感じる場合
お互いに妊活がつらくなりますよね。
相手が苦痛を感じる場合に
「性交渉しないのは、子どもは本気では欲しくないってこと?」
「受け容れられないのなら ボク/わたし を好きでないのかも…」
「性交渉してもらえないことが悲しい、傷ついている」
「子どもがほしいんなら、ちょっとくらい我慢してほしい」
というような思いや考えがあったりするかもしれません。
相手が苦痛を感じることで
ご自分も苦しいお気持ちになられると思います。
とはいえ、性交渉は、
相手が苦痛を感じているのに
無理にしてはいけませんし、
我慢してするものでもありません。
これは、境界線を超えている/脅かされていることになりますよね。
このように妊活のための性交渉がむずかしい場合は、
二人の子どもをもつということが
共通の目的であるならば、
性交渉をもたずに妊娠できますので、
そういったステップを踏んでみるかどうか
話し合われることをおすすめいたします。
方法としては、性交渉を伴わないタイミング療法(シリンジ法)、
子宮内に精子を注入して受精を試みる人工授精、
卵子を採って精子と受精させて、受精した卵を子宮内に戻す体外受精があります。
性交渉ができないという理由以外にも
人工授精や体外受精を選択される方はおられるので、
背景はさまざまですけれども、
2022年に実施された体外受精で生まれたお子さんは7万7206人なので
10~11人に1人は体外受精によって育まれた命ということになります。
シリンジ法や人工授精での出産も合わせれば
性交渉をもたずに生まれた命はもっとたくさん育まれています。
性交渉による妊娠にこだわられるのならば
そのこだわりがどこから来ているのか、
ご自分の人生でこのことが叶わないとどのような影響があるのか、
今のパートナーとの間で可能なことなのかどうか、
今一度ご自分の価値観や信念について考えてみられるのもいいかもしれません。
それによって、今後の選択肢がみえてくるかもしれません。
妊娠はお二人で取り組んでいただくことです。
相手をご自分の要望通りに変えていくことはできませんので
意見や価値観が合わずにむずかしさを感じられるときがあるかもしれませんが、
お互いの安全を守って尊重し合いながら話し合いを重ねたり、
またお互いに他の相談相手をもって冷静にご自分の考えや気持ちを見つめてみたりしながら、
お互いへの理解を深めつつ、進めていかれることを願っています。
妊娠への方法については診療でご相談いただけますし、
夫婦関係や価値観、考え方、あなた自身の境界線のことなどについては
カウンセリングでご相談いただけます。
ぜひ、状況をお聞かせくださいね。
公認心理師・臨床心理士 間塚