毎日新聞に「香山リカのココロの万華鏡」というコーナーがあります。
香山リカ先生は精神科医で、時折ニュース番組のコメンテーターをされていますし、
ご存知の方もいらっしゃるかと思います。
10月10日付けの新聞には、死産を経験された方のお話が掲載されていました。
一部抜粋させていただきます。
―何年も前に会ったある女性は、おなかの赤ちゃんに重い先天性の障害があり、
生まれる前におなかで亡くなった。
夫婦で大変な悲しみに沈んでいたが、親族や友人は励ます意味でか、
こんなことを言ったのだという。
「そういう赤ちゃんなら、もし生まれたとしても、たいへんな苦労だったでしょうね。
これでよかったんじゃないの。早く元気だしてね」―
相手には悪意はなかったのは分かっても、この女性にとっては傷つく言葉だったそうです。
誰かからの励ましでこの女性と似た気持ちを味わわれたことがある方は少なくないと思います。
みなさんからよくおうかがいするのは
「考えすぎるのをやめたらすぐにできるよ!」
「子どもがいない夫婦は仲がいいからいいじゃない!」
「子どもがいると自由な時間がないから羨ましいわ」
「そのうち子どもの方から来てくれるよ」
など、など。
そう言って声をかけて励ましてくれた相手に悪気がないのも分かっています。
分かっているから余計に言い返す気持ちになりませんよね。
けれど自分の気持ちは分かってもらえないんだなと、もやもやしてしまいますね。
私たちには、「前向きに考える」ことがいいことのような意識がありませんか。
現状や出来事がつらくても「いい方に考える」ように励まされてしまいます。
けれども、どんな状況でも前向きに考えるのは不自然ですし、こころに無理が出てきます。
悲しいときは悲しいですし、つらいときはつらいですよね。
香山先生は死産を経験された女性に
「まわりの人はどういう態度を取れば、少しでも気持ちがなぐさめられたでしょうね。」
と尋ねられました。
その方は「そうですね。あまり大げさに悲しんでもらいたくないし、
何を言ってもらっても同じかも。だとしたら、そっと泣かせておいてほしかった」
と答えられたということでした。
周りの励ましてくれる人の想いがご自分の気持ちと合わなかったり違うなと思うときは
まずはご自分の「そうじゃないの」という気持ちを大事にしていただきたいと思います。
そして「そうじゃないの。私こう思ってるの」と言えなかった気持ちを
誰かに聴いてほしいなと思われることがあれば、お話にいらしてくださいね。
臨床心理士 間塚